硝子戸の中

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『泣くな、新栄』7.BOSSと僕
『泣くな、新栄』7.BOSSと僕







知らない間に
トップウェーブ大須店で働き出してから1年が経ち、
二度目の夏が来た。
トップウェーブ大須店には制服はなかったので、
基本的に僕はディッキーズのつなぎに
エプロンを着けて過ごしていたが、
さすがに夏になるとそうはいかないので、
無地の黒いTシャツにジーンズで過ごしていた。
無地の黒いTシャツは原店長とBOSSがいつも着ていたので、
僕も真似していた。

日に日にBOSSと関わることが多くなってきて、
BOSSのことが好きになっていった。
BOSSはいつでも僕らに優しかった。

まだ原店長がいた頃のある日、
僕はお昼休みに事務所で
自分で作ったお弁当を食べていたことがあった。
自分で作ったお弁当というと聞こえがいいが、
ただジップロックのタッパーを2つ並べ、
1つにご飯1合と
もう1つに冷凍食品を詰め合わせたものを食べているだけだった。
冷凍食品が入っている時はまだマシで、
お金がなかったり、
朝起きるのが遅くてギリギリになった時は、
前の晩から炊いていたご飯をタッパーに詰めて、
その上に
きゅうりのきゅうちゃんを5.6切れを乗せただけの漬物弁当だった。
はたから見たら
「ご飯にゴミが載っている。」
くらいにしか見えなかったと思う。
この日が漬物弁当だったかは忘れたが、
そんなお弁当を食べていると
事務所にやってきたBOSSが
僕の後ろからタッパーを覗き込んできた。

「村上、それ、何だぁ?まさか弁当か?」
人間の食うものじゃない。
目がそう物語っていた。

「はい。」

「おめぇ、若いうちはそれでいいけんど、
歳とったらガタ来るぞ。」

「そうですよね。気をつけます。」

BOSSも僕が夜はラーメン屋のまかないで、
ラーメンしか食べていないのを知っていた。
そして
「ただそう言われても
お金がないから無理だけどね。」
と僕が生活態度を改めないであろうことも分かっていた。

次の日、
休憩の時間になり、
BOSSが事務所からレジに降りてきた。

「休憩行ってこい。」

「はい、休憩頂きます。」

「事務所に弁当あっから、
好きなやつ選んで食え。」

「え?あ、ありがとうございます。」

事務所に行くとガストのデリバリーで頼んだお弁当が
従業員の人数分置いてあった。
中を覗くとハンバーグとチキンの2種類のお弁当で、
正直ハンバーグが食べたかったが、
チキンの方が数が多かったので、
チキンのお弁当を食べることにした。

「多分あの人、
僕の弁当を見てわざわざ買ってくれたんだな。」
チキンのお弁当を食べながら、
自分でも持ってきていたお弁当もあったので、
それと合わせて食べた。
もう食べきれないくらいお腹がいっぱいになった。

レジに戻り、
「休憩頂きました。
あとごちそうさまでした。
ありがとうございました。」
とBOSSに伝えると
「お前、何食ったんだ?」
と聞かれた。
チキンですと答えると
「うんだ、
ミュージシャンにはチキンがいいべ。」
と笑っていて、
今だに意味が分からないが、
とりあえず僕もつられて笑った。

最初は週に1.2回くらいだったが、
トップウェーブ大須店が定価1,000円引きのセールを始め、
お店が順調になってくると
毎日お昼ご飯が出るようになった。
ガストのデリバリーもあれば、
CoCo壱番屋のカレーもあり、
マクドナルドの日もあれば、
隣のとんかつ屋さんに
「休憩に行ってこい。」
と言われて行ってみると
とんかつ定食が出てきたこともあり、
僕がベントマンにお弁当を取りに行くこともあった。
一番多かったのは隣の中公設市場にある
お弁当屋さんで、
僕もお弁当を持ってこなかった時、
たまに食べていたお店のお弁当だった。
今ではもう中公設市場はないので、
お店の名前は分からない。
確かみそヒレカツ弁当が600円で
50円でご飯大盛りにすると
もう食べきれないくらいご飯をぎゅうぎゅうに詰めてくれて、
確実にお腹はいっぱいになるのでよく食べていた。
中公設市場の間隣に
トップウェーブ大須店はあったので、
立地的に良かったのか、
一階の女の子をお使いに送って、
僕が休憩に行く時には
ちゃんと事務所にいつものお弁当が置いてあった。
中公設市場にはお弁当屋さんが2つあって、
さっき出てきた揚げ物メインのお店と
惣菜メインのお店で、
揚げ物が続くと惣菜のお弁当になり、
惣菜が続くと揚げ物のお弁当になった。
揚げ物メインのお弁当の場合、
よくアジフライが入っていたことと
惣菜メインのお弁当の場合、
野菜炒め弁当というのがあって、
キャベツの炒め物上に
ウィンナーが4本乗っているという
信じられないくらいシンプルなお弁当だったが、
これが不思議とすごく美味しかったことを覚えている。
そういえば
たまにBOSSの遊び心で、
揚げ物メインのお弁当の時に
カツ丼3人前を詰めた
特特盛のカツ丼弁当が僕だけ出てくることがあった。
ある日、
何も知らずに事務所に行くと
そのカツ丼弁当が置いてあり、
最初は目を疑った。
カツもご飯も器から溢れかえり、
プラスチックの蓋からはみ出していた。
特にBOSSには何も言われておらず、
「若いからお腹が空いているだろうと
気遣ってくれたんだな。」
と思い、
残すわけにいかないと心を決め、
黒烏龍茶を片手に食べたが、
半分以上はどうあがいても食べきれなかった。
仕方ないので、
一度新栄に帰り、
アパートにあった部屋の丼に
食べきれなかった分を移してから、
お店のどんぶりのプラスチックケースのゴミだけ持って、
事務所に戻り、
そのゴミだけ捨てておいた。

「休憩ありがとうございました。
ごちそうさまでした。」

「おう。」

あとから聞いた話だと
BOSSはそれ以上は言わない僕を内心びっくりしていたらしい。
「店員に
「BOSS、やり過ぎですよ。
こんなん普通の人が食べられるわけないですよ!」
って注意されたけど、
「いいから、いいから。」
って無理やり作らせたのに、
村上はけろっとごちそうさまだもんなあ。
あんなもん、冗談に決まってんべ。
でも何回やってもごちそうさまだもんな。
お前はほんとによく食べる。」
結局、
最後までBOSSには
いつも本当は僕が食べきれなくなり、
わざわざアパートに持ち帰って、
次の日の朝に食べていたことを言わなかった。
「BOSS、あれ本当に大変でしたよ。
消化に1日半は掛かりましたから。」
BOSSがあんまりにも楽しそうに
一緒に行った飲み屋で店員に話すので、
僕もそれ以上は言えなかった。

BOSSには子供が2人いて、
地元の福島に奥さんと3人で暮らしていた。
大体、
僕くらいの歳の子だと話していたので、
大学生か大学を卒業したくらいの歳だったんだと思う。
BOSSはコンサルタントの仕事をする前は元々松坂屋の食品コーナーのバイヤーだったらしく、
シーズン毎の企画で全国を飛び回っていたので、
あまり家には帰らなかったらしい。
独立してからはもっと帰れなくなり、
また女性も好きな方だったので、
各地に会う女の人がいて、
余計家庭を顧みなくなっていたみたいだった。
そんな中、
息子くらいの歳の子がアルバイトに入ってきて、
タッパーに詰めたご飯を食べている姿を見て、
自分の息子の姿とダブったのかもしれない。
お弁当はいつもBOSSのポケットマネーだった。
ラーメン屋のアルバイト先にも
僕がいない時だったが、
出張の帰りにこっそり来てくれたこともあった。
「お前いたら、
チャーシューくらいサービスしろ!
とか言ってやったんだけどな。
普段あれ食ってんだな、村上は。
しかし名古屋のラーメンは旨くないべな。
福島のラーメンの方がよっぽど旨いべ。」
言葉はいつも乱暴だったが、
そうやって普段の僕の生活を気にかけてくれていた。

最初に会った時の印象を忘れるくらい
いつもBOSSは僕に優しかった。





| 泣くな、新栄 | 21:00 | comments(1) | trackbacks(0) |
コメント
なぜでしょうか。わたしは、この内容を見ながら涙が出ました。
それはきっと、村上さんがBOSSという方を慕う気持ち、そしてBOSSも同様に、村上さんに対してご自身のお子さんの成長した姿を重ねるように、慈しむ気持ちがあって…。そんなお二人の絆のようなものが、BOSSに会ったこともないわたしにも強く伝わるからなのだと思います。
人との出会いは、奇跡です。
出会うべくして、人と人は繋がるのだと思います。
村上さんに出会えて、よかった。
続きを、楽しみにしております。
| sako | 2016/08/08 12:35 AM |
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