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『泣くな、新栄』8.サイン会について
『泣くな、新栄』8.サイン会について





そういえば
アダルトビデオショップの話なのに
その手の話題が一切出てきてなかった。
なので
今回は僕がトップウェーブ大須店で働き出した目的の1つでもある
サイン会にまつわった
彼女たちとの思い出について書こうと思う。

これを読んでいる
どれくらいの方の中に
アダルト系のイベントに参加したり、
馴染みがあるのかは全く分からないが、
基本的に多くの女優さんには
サイン会が活動の一環としてあった。
トップウェーブ大須店でも
セール後は名古屋だったのでそこまで多くはなかったにしても
それでも月に1.2度くらいは開催されていて、
タレントレベルの有名女優さんから
ある程度知識があると思っていた僕ですら知らないような
全くの無名の女優さんと
サイン会や営業の挨拶まわりを通して
たくさんお会いした。
最初の頃はバンドの活動があり、
主としてサイン会が行われる土日が休みだったので、
あまり参加できなかったが、
原店長が辞めた辺りからは
サイン会や女優さんが営業に来る日は
僕が名古屋にいる場合、
基本的に出勤することになっていた。
この名古屋にいる場合というのは、
明日、照らすが
『素晴らしい日々』をリリースして、
全国ツアーに出たので、
たまに土日に出られないことがあり、
そこはBOSSも考慮してくれた。
でも名古屋でライブがあった場合は、
サイン会をしてからライブに行っていたし、
インストアイベントのような昼間のイベントの場合、
ライブをしてからサイン会を手伝いにお店に帰った。
しかしあれは不思議な感覚だった。
さっきまで自分がやる側の人間だったのに
お店が変わればエプロンを身につけ、
完全に裏方にまわる。
でも全然苦じゃなかったし、
むしろお店に帰りたくてしょうがなかった。
やっぱり
どんな人でも会えたら単純に嬉しかった。

まずサイン会の簡単な流れとして、
お店でDVDを買い、
女優さんと会い、
サインをしてもらって握手をし、
また列に並び直し、
撮影会をして終わるパターンが多い。
イベントによっては
そのパターンの中に
私物争奪のじゃんけん大会やビンゴゲームがあったりもして、
女優さんによって内容にも個性があった。
ちなみに撮影会というのは
大体お客さんが5人一組くらいの人数で
女優さんの前に一列で並び、
3分間程度の間に順番で
写真を撮影していく時間のことで、
「目線を下さい」や
「可愛いポーズして下さい」など、
リクエストを出しながら
自分のカメラで女優さんの好きな写真が撮れる。
ここで一番大切なのはDVDを買う枚数で、
枚数を多く買えば買うほど、
サイン会での待遇も良くなり、
特典のグレードもアップする。
特典のグレードとは
女優さんと2人きりのツーショット写真が撮れたり、
お店が用意した色紙や生写真ではなく、
私物にサインをしてもらえたり、
撮影会では
撮影タイムが5人ではなく1人でできたり、
女優さんの衣装が
コスプレや水着での撮影になったりする。
誤解しているかもしれないが、
サイン会で女優さんが裸になることはまずないし、
むしろちょっとした下ネタさえも言い難いような特殊な空気がある。
そもそも相手はただ仕事が特殊なだけで、
中身は普通の女の子たちなんだから、
当たり前なことだと思う。
「AV女優なんだから裸になれよ。」
とか思う人もいるかもしれないが、
「芸人なんだら面白いこと言って。」
という人と同じくらい
僕はそういう人のことを軽蔑してしまう。
そもそも
じゃあお前はバンドマンに向かって、
「君、歌上手いからここで歌ってよ。」
と言いたくなるのか。
トップウェーブ大須店の従業員の1人として
サイン会のもぎりや警備の立場から
改めてサイン会の会場を眺めていると
沢山のお客さん達に見つめられながら、
業務用の長机にパイプ椅子という
簡易なステージに1人きりで座り、
色が白く細い華奢な腕で
ひっきりなしに続く行列の一人一人に
色紙や
自分の裸が写った生写真にサインをしている
彼女たちを横から見ていると
「あのか細い腕に
自分の人生の全てを掛けて支えているんだなあ。」
と涙が出そうになったことが
本当に何度もあった。
「職業柄、
他人から誤解されて、
友達から冷たくあしらわれて、
彼氏とも嫌な別れ方をして、
悲しい気持ちになったり、
少しでも嫌な目にあったり、
怖い思いや辛いことがこれから先、
極力起こりませんように。」
と心の底から願わずにはいられなかった。
確かに僕自身も職業として
彼女たちを肯定することはできないし、
「自業自得だ。」と言われると
「そんなことはない。」
とあなたを言い負かすほどの言葉も
持ち合わせてはいないが、
少なくとも
選んだ職業を全うし、
ひたむきに生きている彼女たちを否定する権利は
僕たちにはない。

女優さんたち以上に
サイン会に来るお客さんもなかなか個性的で、
僕は自分のCD以外渡したことはなかったが、
渡すプレゼントにも色々なものがあった。
お菓子や地方の名物の定番から
「あなた、
普段そんなの使ったことないよね。」
と思われるおしゃれな入浴剤や石鹸、
時計やコスプレグッズなど様々で、
おそらく
彼女たちのブログか何かで得た情報で
「こういうのが好きなんだろうな。
喜んでくれるかな。」
と用意したであろう
こういった心のこもったプレゼントを見ると
あまりの健気さにサイン会のスタッフをやりながら、
優しい気持ちになったこともあったが、
ただそれ以上に
笑いそうになることの方が多かった。
ある日、
ある女優さんのサイン会に
他店で行われた昼の部に参加したお客さんが
トップウェーブ大須店での
夜の部に再度参加し、
ポスターサイズの大きな写真を持っていた。
サイン会の受付でもぎりをしながら
「なんかの映画のポスターかな?」
とそのお客さんを何となく見ていると
そのポスターは
昼の部に参加して撮った
彼女とのツーショット写真で、
「これ、さっきの写真だよー。
渡したくてさっき急いで現像してきたんだよー。」
と本人に渡していた。
見ず知らずのファンと並んで写る彼女のポスター。
私服姿で彼女は彼にもたれ掛かり、
満面の笑みで笑っている彼女と
照れくさそうに笑う彼。
彼には初デートをする
カップルのように見えたのだろうか。
2人のバックにデカデカと
やけに原色の強いポップ体で書かれた彼女の名前と
一面サイン会用に
真っピンクの布で覆われた舞台の背景が
あまりにもシュール過ぎ、
手のひらを指でつねりあげながら、
「…こんなもん、絶対にいらねー!」
と笑いをこらえた。
そんな中でも特に覚えているのは、
ある胸の大きな女優さんのサイン会の日のこと。
またこの日ももぎりをしていた僕は、
1人のお客さんがドラゴンズのユニフォームを持っていることに気がついた。
「ユニフォームにサインしてもらう気かな?」
そう思って見ていると
列が進んで彼の番になった時、
そのユニフォームを広げて女優さんに見せびらかした。
よく見ると
ドラゴンズのユニフォームの背中に
彼女の名前が書いてあり、
よくよく見ると
背番号が彼女の胸囲のサイズだった。
しかもそれを手渡したところを見ると
どうやらあれはプレゼントだったらしい。
「こんなもん、
ドラゴンズファンでも
欲しいヤツいねーよ!!」
心の中でツッコミを入れると同時に
また手のひらをつねりあげながら
どうにか笑うのを堪えた。
しばらくすると
一階の女の子がたまたま見学に来て、
カゴの中に入っていた
ユニフォームに気がつき、
「…私さ、
ドラゴンズのファンなんだけど、
こういうことされると本当に腹立つわー。」
とものすごく怒っていて、
心の中で
「…阪神ファンでも
ドラゴンズファンとこんなに揉めないよ!」
と自分で入れたツッコミに思わず
吹き出してしまった。
あとから聞くと女優さんは別に
ドラゴンズファンでもなんでもなかったが、
彼女が帰った後、
事務所にドラゴンズのユニフォームがなかったところを見ると
おそらくちゃんと持って帰ったんだと思う。

トップウェーブ大須店では
大体のプレゼントは手渡しで渡し、
サイン会ブースの隣に置いてあるカゴに移された。
人気の女優さんになるとカゴが2.3つでは足りず、
カゴがいっぱいになると
楽屋になっている応接間にカゴを持って行き、
中身を置いてからまたブースにカゴを戻した。
ある人気の女優さんが来た時は、
カゴ10つ分くらいのプレゼントが集まり、
サイン会が終わり、
楽屋に挨拶に行くと
応接間がプレゼントの山で溢れかえっていた。
「やっぱり人気者は違うなあ。」
と後ろで眺めていると
BOSSとマネージャーが話している間、
本人はプレゼントの山をかき分けて
日常品で使えそうなプレゼントだけを
バッグの中に詰めるだけ詰めると
「あとは処分しといて下さい。」
と言い残し帰っていった。
そしてまた別の女優さんだったが、
サイン会の途中でカゴがいっぱいになったので、
楽屋にカゴの中身を置きに行くと
マネージャーが勝手にプレゼントのお菓子を食べていて、
結局食べきれなかった分は
女優さんが食べることはなく、
あとはお店で処分した。
もちろん全て持って帰った方もいたし、
持ちきれない分を
わざわざ事務所に郵送していた方もいた。
ただ
ここで処分した彼女をかばうわけではないが、
彼女たちのような職業の場合、
見ず知らずの男性からの食べ物はやっぱり怖いと思う。
そういえば
それを物語る出来事があった。
またあるサイン会当日のこと。
この日も人気女優さんのサイン会だったので、
当日は200人を超えるお客さんが来て、
お店は大盛況だった。
この日、
僕はレジで
サイン会用のDVDを販売していて、
さすがに半日で200人以上のレジを打つことに
疲弊しきっていた。
サイン会が終わり、
早佐乙さんが戻ってきたので、
お手洗いをしに事務所横のトイレに行くと
ちょうど
サイン会を終えたばかりの女優さんとタイミングが一緒になった。
「お疲れ様でした。」
そう挨拶すると彼女は小さく頷き、
女子トイレに入っていた。
僕が男子トイレに入る前に
隣から手を洗う音が聞こえた。
「入る前から手を洗うなんて
きれい好きな人なんだな。
てかこの流れだと
トイレを出た後にもう一回会えるな。」
何を言われても仕方がないが、
今日は1日レジだと言われて、
がっかりしていたところ、
一瞬会えたことにより下世話な考えが出て、
いつもよりも長めに用を足すことを思いついた。
トイレの入り口の扉は半分透明になっていたので、
彼女が前を通り事務所に帰る姿はそこで確認もできる。
だいぶ長めに用を足し、
3分ほどが経っても
まだ前を通っていなかった。
5分経ち、
ずいぶん前に手も洗い終え、
ただお手洗いの壁にもたれてぼんやりしながら、
「もしかしてもう行っちゃったのかな?」
と思って外に出ると
女子トイレの方から手を洗う音が聞こえてきて、
今から出るところだったんだなと
用もないのにトイレの前にある
給湯場の整理をしていたが、
そこからまた3分間ずっと手を洗っているだけで、
一切出てこなかったので、
諦めて事務所に帰った。
「トイレに入ってからずっと手を洗ってたんだ。
本当は心にものすごい負担が掛かってるんだろうな。」
ドア越しに自動ではなく、
押すタイプの洗面台から聞こえてくる
ガチャ、ジャー、
ガチャ、ジャー、
という一定のリズムを聞いていると
僕まで彼女の胸の奥の気持ちを聞いているみたいな気持ちになった。
僕はここで別に彼女を批判するつもりはない。
選んだ職業とはいえ、
ファンまでは自分で選べない。
あのサイン会で何があったのか、
何が嫌だったのか、
いつもそうだったのか、
当日あの場にいなかったし、
そんな経験も僕にはないので
今でも分からないが、
テレビやアダルトビデオショップで
彼女の姿を見かけると
今でもあの時の音が聞こえてくる。

これくらいの人気女優さんにもなると
1回で200人くらいの人が来るが、
普通は40人くらい来たらいい方で
大体が昼と夜で2回のサイン会を
県内の他店舗で掛け持ちしたりしていて、
当日になるまで
どれくらいの人が来てくれるのかは分からなかった。
人気の女優さんが来る時は
ただお店で待っていたら人が来たので良かったが、
無名の女優さんの場合は
人を集めるのに本当に苦労をした。
友達をサクラで呼んだこともあるし、
僕自身がサクラとして列に並んだこともあった。
それくらい厳しかった。

ちなみに
トップウェーブ大須店のサイン会での最低動員はサクラを入れて9人。
ただこの日のことが一番覚えているし、
2人で大須の商店街を歩きながら、
僕の後ろで彼女が呟いたあの声が
今でも昨日のことのように思い出せる。







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