硝子戸の中

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『泣くな、新栄』あとがき
『泣くな、新栄』あとがき














あの時住んでいた新栄のアパートは
12.3階建ての8階で、
アパートの入り口に
オートロックはあったけど、
ある番号を押すと簡単に解除することができたので、
僕の友達はみんな番号を知っていて、
誰でも簡単に入ってくることができた。
何よりもアパートの部屋にカギも掛けていなかった。
オートロックに安心していたわけではなく、
付き合っていた彼女が鍵をなくしたので、
合鍵を作るお金がなかった僕は
その時から鍵を掛けなくなった。
トップウェーブ大須店で働いていた間に
彼女とは別れたけど、
鍵を掛けないのが癖になり、
あのアパートを出るまで
ほとんど部屋の鍵を掛けることはなかった。
そもそも
あの部屋に別に盗まれて困るものは何もなかったので、
鍵があってもなくてもどっちでもよかった。
今では外出する時に鍵を掛けている。
ただ
あの時の名残なのか鍵を掛けて外出する際、
鍵穴に鍵を差し込みながら、
「お前はそんな身分かよ。
何にびびってんだよ。」
とどこか後ろめたいような時がある。
あのアパートに住んでいた時に比べて、
今の今池のアパートには
盗まれたら困るものが増えた。
デスクトップのマックもあるし、
父が買ってくれた
一人暮らしには少し大きめのテレビもあれば、
30万以上のお金をつぎ込んで完成させた
さよならパリス用のエフェクターボードも
レコ発ライブ前の今盗まれたら困る。
そう思うと大人になるというのは、
もしかしたら
人から盗まれたら困る大切なものが増えることでもあるのかも知れない。

今回タイトルにつけた『泣くな、新栄』の意味は、
当時、
たまに風が強い日に部屋に1人でいると
周りに8階以上のマンションがなかったので、
異常に風が強く
「びゅー、びゅー」と唸り声をあげては、
窓にぶつかってまた唸り声をあげて
消えていった音が
誰かがどこかで泣いているように聞こえたことからきていて、
新栄全体が泣いている様な悲鳴にも似た
あの音が聞こえてくると
友達も彼女も来ない1人で眠る夜は
心細くてたまらなかった。

「今の俺はこの世の中にいてもいなくても
どっちでもいい人間なんだ。」

フリーターの身分で売れてないバンドマン、
あの時、
そんな社会のどこにも属していない恐怖と毎日戦っていた。
そんな気分でいる僕に
追い打ちをかけるかのような
新栄の泣き声が聞こえてくると
余計に気持ちが落ち込んできた。
頭の中で
布団から起き上がり、
ベランダに走って行って、
飛び降りる自分自身の姿の妄想がぼんやりと浮かんでは消え、
浮かんでは消えていく孤独な夜の時間。
その度に頭を振り、
敷き布団の隅をぎゅっと握りしめて、
自分の体が床から離れないようにしながら、
ただ涙を堪えるのに必死だった。

「泣くな、
今お前まで泣いたら惨めになる。
だから絶対に泣くな。」
そう何度も自分自身に言い聞かせていた。

今でも今池のアパートであの夜の事をふと思い出すことがある。
今は3階に住んでいて、
同じくらいの背丈の建物が周りに乱立している為か、
風がそこまで強くはなく、
泣いてるような音はどこからも聞こえてこない。

しかし
今ふと思い出すと
あれはただ幻聴だったのかもしれない。
心細い自分に新栄の街を重ね合わせただけであって、
もしかすると泣いているような音は
実はどこからもしていなかったのかもしれない。
もう今ではあのアパートのオートロックの暗証番号を忘れてしまったので
アパートの中に入ることもできないし、
何よりも今あの部屋に住んでいる誰かは
部屋に鍵を掛けていると思うから、
勝手に入って確認することもできない。
そして今の僕は
一流の社会のどこかに所属している訳でも
バンドが売れた訳でもないけど、
幸か不幸かある程度の知恵もついたので、
あそこまで苦しむことは二度とできない気がする。
だからどのみち、
きっと今の僕には聞こえないだろう。
ただ聞こえなくなった今となって
あの日々を振り返ってあるものは、
追い込まれるほどの苦しみというよりかは、
懐かしいヒリヒリとした思い出の中の痛みでしかない。

この話の全てを
今社会や現実の狭間で孤独に戦っている
全ての夢を持つ人たちに捧げます。
志半ばの上、
結果も出してない分際で
偉そうなことを言える立場ではありませんが、
最近なぜか年下の子たちから
漠然とした将来への不安について
相談を受ける機会が増えた。
『泣くな、新栄』は
本音を言うと
最初はさよならパリスのアルバムに向けての宣伝目的ではあったけど、
やっぱり
iPhoneが壊れて全てが一回消えても
またゼロから書き直そうと思えたのは、
あの時、
彼らや彼女たちと話し切れなかったことを
「この話が何かの足しになったらいいな。」
と思ったのは大きかった。
だから
当初あった宣伝部分の全ては排除し、
ただあの時話し掛けてくれた
彼や彼女にまた話しかけるように
毎日コツコツと書いた。
正直、
僕よりも経験を積んだ人生の諸先輩方には
「何を偉そうに。」
と思われた部分も多々あったかと思うが、
その点はどうかご容赦頂きたい。


誰にでもいい時もあれば、
悪い時もあるよ。
君だけじゃない。
読んでて分かっただろうけど、
俺なんて酷いもんでしょ?
長過ぎて最後まで読んでない?
先輩に語らすだけ語らせるなんて、
君もなかなか酷いねー。
てかさ、
俺だってどうしたいのか、
今だに分かんないって。
みんな、
多分だけどそんなもんなんじゃないかな。

とりあえず
たかだか先に生まれただけの人間として言えることは
幻聴にも等しいような夜の泣き声が聞こえてくるなら、
その声にそっと耳を傾けてみて下さい。
多分、
そこに今の自分が見えてくる気がするよ。
辛いなら辛いでいいから、
是非その今の自分を
そっと抱きしめてあげて下さい。
きっとその時間が
いつかの君を助けてくれる日が来るから。

いつかまたどこかで会おうね。
楽しみにしてる。


最後になりましたが、
僕を今の僕へと導いてくれた
トップウェーブ大須店を始め、
BOSS、原店長と早佐乙さんとアルバイトのみんなへ、
お会いした数々の女優さまとメイカーさま、
担当者さまに感謝を込めて。


最後まで読んでくれた皆様、
このブログやツイッターで
わざわざコメントを頂いた皆様、
「日記早く更新してくれ!」
とわざわざメールをくれた友達のみんな、
本当にありがとうございました。





トップウェーブ大須店

一番人生で多感だったあの頃に
刺激的で楽しい時間をどうもありがとう。
あの日、
あの場所で
あの棚と棚の隙間に
求人広告を見つけなかったら、
きっと今の僕はいなかったよ。


いつかまたどこかで会おうね。
楽しみにしてる。






明日、照らす/さよならパリス
村上友哉
| 泣くな、新栄 | 22:00 | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
「泣くな、新栄」、毎日楽しみでした。村上くんにとってトップウェーブ大須店での日々がきっとそうであったように、今回の連載を読むことが私の成長に繋がったように思います。…村上くんより年上なので、もうすでに良い大人な年齢ですが、もう一度改めてしっかり責任もって仕事していこうという気持ちにさせてもらいました。
どんな仕事も楽じゃないし、一生懸命やる場合と楽しようとした場合とでは、ついてくる結果も周りからの人間的評価も変わってくる、…ホント、どんな仕事でも見ている人は見ているんだと思います。村上くんのいろいろな意味でちょっと冷静な他人の見方や、その一方でより良い人間関係を築こうとしていたり、言われたことに対してなにくそと一生懸命になったりするところ、すごく人間として大切な部分だよなぁと感じ、きっとそんな人だから、私は村上くんの歌が好きなんだろうなぁとも思いました。
村上くんの書く文章とても好きですが、それ以上に歌が大好きなので、どうか長く続けてください。そして、東京にたくさんライブしに来てくださいね!
| NORI | 2016/08/15 12:08 AM |
ありがとう
| 名無し | 2016/08/16 12:59 AM |
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