硝子戸の中

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STAY CRAZY/FOREVER LOVE 3『大人になんかならないで』

『大人になんかならないで』

 

2週間前の話。

住んでいるアパートで

iPhoneを触りながら、

用を足していると

ズボンの位置を直す際に

手を離した一瞬、

置き場所が悪かったのか、

iPhoneが床に落ちた。 

画面からのおもっきり顔面強打。

1年くらい使ったiPhone 5C

すぐに確認すると

幸いな事に画面も割れていなかったし、

水にも濡れていないので、

ほっとしていたが、

その後、

知人から電話が掛かってきたタイミングで、

ある異変に気がついた。

電話に出れない。

何回やっても全くスライドが出来ない。

画面はちゃんと点いているし、

液晶以外は全部普通なのだが、

とにかくスライドだけが出来ない。

最初は画面に異常はないので、

「再起動したら直るだろう。」

くらいに思っていた。

スライドが出来ないので、

再起動も出来ないかと思ったが、

ホームボタンと電源の長押しで

強制終了が出来ることが分かり、

何度か試す。

直らない。

20回くらいはやったと思う。

やればやる程、

思考もおかしくなり、

「同じシチュエーションで落とせば直るかも。」

と筒井康隆の書きそうな

ヤングアダルトSF小説的な気分になって、

トイレに入り、

同じ場所で同じように落としてみたが、

当然直る気配はなかった。

このままでは画面に触れられないので、

ロック解除が外せず、

現状のバックアップが取れない。

最悪の事態を想像し、

過去にバックアップを取った記憶を振り返ると

どう考えても去年で、

あれからは一度も取っていなかった。

iCloudでバックアップを取っている気もしたが、

5GB以上は別料金になるのを知って、

それ以上は更新しなかった。

 

次の日になり、

iPhoneの修理店に行く。

インターネットで調べる限りだと

「画面が浮いているだけで、

液晶パネルを替えたら直る。」

という記事を見つけたので、

昨日のうちにお店を調べておいた。

ホームページでは

Apple Shopの様な

白を基調とした明るい店内の印象だったが、

いざ行ってみると

40年以上は経っている

古びたマンションの一角で、

薄暗い階段の先にある小さな部屋に

女性が1人で座っているだけだった。

昨日、ネイルを変えたのだろうか、

外から覗くと

しきりに自分の爪を眺めていた。

お店に入ると

爪を見るのをやめて、

面倒くさそうにこちらを向き、

テーブルにあった規約書を差し出してきた。

規約書に記入しながら、

状況を説明すると

最初は

「落としただけなら多分直りますね。

40分後に取りに来て下さい。」

と言われた。

言われた通り、

近くでお昼ご飯を食べ、

40分後に出直すと

「結論から言うと直りません。」

と言われる。

パネルを何枚か替えてみたが、

全く反応がないらしい。

「本体交換が一番確実です。

バックアップは取られてますか?」

と聞かれ、

「多分取ってないですね。」

と答えると

眉をひそめて、

「そんな奴はiPhoneを持つな。」

という顔をしていた。

直っても直らなくても

工賃で3,000円は掛かるとの規約書に書いてあった通り、

仕方ないので3,000円払ってお店を出る。

帰り際、

「これってどこに出しても同じですか?」

と聞くと

「おそらく。」

と一言だけ言われ、

また座って爪を見る続きを始めた。

 

「あいつ、

爪が汚れるのが嫌で、

でも工賃は貰えるから

直してないんじゃないか?」

最初は直ると言っていたのに

直らなかった分、

怒りが膨れ上がり、

その矛先がついに彼女にまで向いた。

 

Apple Shopで見てもらうから、

待ってろよ、ネイル女。

直ったら自慢の爪を全部剥がしたるからな!

今に見てろ。」

 

結論から言うとAppleでも直らなかった。

ここでも

「落としただけなら多分直りますね。」

と言われて直らなかった。

「こんな事ってよくあるんですか?」

と聞くと

「なくはないですが、

ほとんどありませんね。」

と言われた。

またAppleでも

「本体交換が必要ですね。

バックアップは取られてますか?」

と聞かれ、

取ってない事を伝えると

ネイル女と同じ顔をされた。

世の中的に間違っているのは僕の方だったみたいだ。

ただ

ここまで僕が必死になっていた事にも訳があった。

写真やメール、

その他の機能は別になくなっても良かった。

写真は撮り直せばいいし、

メールは僕に必要なものならまた来るから。

ただ必死に書き溜めてきた

色んな文章や歌詞が二度と取り出せない事が

あまりにもショックだった。

 

さよならパリスのアルバムをレコーディングしている間、

「後々、

何かの足しになるかもしれないから。」

と書き溜めてきた

さよならパリスレコーディング日誌『大人になんかならないでね』1年分、

その発売に合わせてどこかで載せるか

アルバムのツアーグッズとして販売するか用に書いた

半自伝小説的な日記『泣くな、新栄』3,000×10話(全12話予定)、

さよならパリスのアルバム用全曲歌詞と全曲解説、

TRACKs用書きかけコラム7.8本などの

時間にするとトータル100時間くらいの作業の数々。

新しく書き直す気力も今はない。

せめて『泣くな、新栄』だけでも取り出したい。

『泣くな、新栄』は

僕が大須のアダルトビデオ店で

バイトをしていた時の思い出話で、

在席自体は2年半位の出来事だったが、

今の僕を作る上で

必要不可欠な経験をした濃い時間だった。

過去に日記やライブのMC等で

たまに話していた事もあったが、

TRACKsのコラムで

『大須』について書いていた時に

いきなりスイッチが入り、

「せっかくだからまとめて書こう。」

と今月からコツコツと暇を見つけては書いていた

自画自賛のなかなかの力作。

完成はしていなかったが、

あと2話で終わる終わりは見えていた。

ようやく

アルバイトから店長代理になり、

店長代理の初仕事だった

営業に来たメーカーさんとAV女優さんの対応を1人でしたところまで書いた。

ここからお店がどうなっていったのか、

僕はどうなったのか、

書き出しの面倒な部分が終わり、

誰が読んでも分かるように

所々に散りばめた

何となくの業界の説明も終わって、

好きなように好きなだけ書けるタイミングの

1番楽しくなってきたところで、

全部取り出せなくなった。

しかし書けば書くほど、

あの時の事を鮮明に思い出し、

「なんでこんな事も覚えてるんだろう?」

と自分でも驚く程の記憶を発揮した。

あれから約10年も経つなんて信じられない。

今でもふと目を閉じるとあの店のレジにいて、

一枚のポスターと

そのキャッチコピーが見えるようだ。

 

大学の友達と卒業後に会った日の事。

卒業してから久しぶりに

男女混合の7.8人くらいの飲み会があった。

男女混合とはいうものの

男で来ていたのは僕と星野だけだった。

それでも

そういう会に呼ばれると思っておらず、

ちょっと楽しみにしていた。

ただ行ってみると基本的に話題は

4月から入ったばかりの会社の愚痴ばかりだった。

「帰りが遅い。」

「仕事がキツイ。」

「残業代がつかない。」

「上司が嫌い。」

「同僚も嫌い。」

何でその会社に入ったのか分からない程、

底なしに愚痴が出続ける時間。

「まあでも最初はそうだよね。」

そう思いながらただ聞いていると

「それで村上くんはどうなの?

バンド頑張ってる?」

と女子が僕に話題を振ってきた。

途中から露骨にあまり話さなくなったので、

気を遣われたんだと思う。

「何か言わなきゃ。」と思い、

口を開くと

僕が話すよりも先に星野が話し出した。

 

「村上はいいよな。

好きな事やってんだから。」

 

「いや、でも大変だよ。

事務所入ってる訳じゃないし、

CDも作るけど自分達でお金を出して作るからね。」

 

「お前は愚痴を言うなよ。」

 

「えっ?」

 

「お前は好きな事やってんだから、

愚痴なんか言うなよ。」

 

「ああ、そうかな。」

 

結局、

それから最後まで何も話さなかった。

「来なければ良かった。」

ただただそう思っていた。

 

飲み会も終わり、

クラスの裏マドンナだった

後藤さんと帰り道が同じだった星野が

彼女を送る事になった。

星野は車が好きで、

大学生の頃からかなりお金を掛けていて、

社会人になり、

情熱が爆発したのか、

新社会人には相応しくないような

スポーツカーに乗っていた。

当時、

フリーターで車さえ持っていない僕。

羨ましさもあったのか、

星野に冗談で

「お前、帰り道に変な事するなよ。」

と言うと

彼が僕の顔を睨みつけて言い返してきた。

 

「お前はそんなしょうもない事しか言えないから、

社会人にすらなれないんだよ。」

 

次の日は朝からバイトだった。

月曜日のお店がオープンする10時から

アダルトビデオを買いに来るような物好きはなかなかいないので、

大体昼過ぎまでは誰も来なかった。

掃除が終わるとやる事もなく、

ただ1人でレジにいる事が多かった。

この日もやる事がなく、

ただレジでぼんやりと

目の前にあったポスターを眺めていた。

『大人になんかならないで』

 七海ななさんのデビュー作だ。

新緑の木々の中でまだあどけなさが残る彼女が

制服姿で振り返っている顔がアップになっている写真のポスター。

元々作品のパッケージではあるが、

他のアダルトビデオのポスターのように

イヤらしさを前面に出さないデザインで、

パッと見ただけだと

誰もアダルトビデオのポスターだとは思わないかも知れない。

「こんな可愛い子も

ビデオに出る時代なんだなあ。」 

とオーナーは1人で呟きながら貼っていたくらい

オーナーのお気に入りだったからか、

1番目立つレジ前にポスターが貼ってあったので、

暇があると1人でぼんやりと眺めていた。

ギトギトとした作品が並ぶ店内で、

アリスJAPANらしい爽やかな清潔感があったので僕も好きだった。

ただこの日はぼんやりと眺めるだけではなく、

眺めながら昨日の夜の会話を思い出していた。

社会に不満を持ち大人になっていく同級生と社会というか世界中に不満だらけで

何も変わっていない僕、

そして周りからもそう思われている。

みんな口には出さなかったが、

星野の一言が全てを象徴していた。

「お前はそんなしょうもない事しか言えないから、

社会人にすらなれないんだよ。」 

 

 

「俺は社会人になれなかったんじゃない。

今はなりたくなかったんだ。

お前らは笑うだろうけど、

今はまだ大人になりたくなかったんだ。

だって

このまま流れに流されて漠然と生きて、

お前らみたいになりたくないから、俺は。

今にさ、見てろよ。」

気がつくとポスターを眺めながら、

アダルトビデオ店のレジで

1人そう呟いていた。

 

 

それ程までに息巻いていた僕が

後にどうなっていったのか。

iPhoneが直るか、

僕のモチベーションが戻ったら、

また書くかも知れませんが、

今日はこの辺で

肝心のさよならパリスのアルバム制作に戻ります。

 

 

 

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