硝子戸の中

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STAY CRAZY/FOREVER LOVE 4『ライ麦畑でつかまえて』

 

 

 

 

『ライ麦畑でつかまえて』

 

 

 

一時期、

風俗嬢のブログを毎日読んでいた。

名前はモモさんなのか、

モモちゃんなのか、

プロフィール上での年齢は26歳になっていたが、

ブログの中では

「三十路を過ぎると」

「もうオバさんに片足を突っ込むと」

と現実の世界で

確実に年齢を詐称しているであろうフレーズが並んでいた。

彼女との出会いは

たまたま池下を歩いていた時に見かけた

風俗店の看板だった。

お店の上位3人の人気順に

手で口元を隠した顔写真と

ちょっとした自己紹介が書いてあり、

『いつでも人気ナンバーワン モモ』

という一文に目が引かれた。

女性本来の実力が問われる

ごまかしが利かない

ベリーショートに近い髪型ではあったが、

キリッとした目元が印象的な顔立ちで、

口元は手で覆われていても

その実力は十分に伝わってきた。

察するに素手でやり合える力の持ち主。

風俗店に行く勇気もお金も持ち合わせていない僕は、

家に帰ってから何となく思い出し、

興味本位でお店のホームページを見てみると

彼女がブログをやっている事を知る。

「風俗の人ってブログやってんだ。

あがってる写真見たら、

隠していた口元がどんなのか分かるかもなあ。」

と最初はそれくらいの気持ちでブログを見ていたが、

気がついた頃には過去の日記を遡って読むようになっていた。

はっきり言って読むまで全く期待はしていなかった。

どうせ風俗で働くような人の書く事だから、

最近こんなドラマ見てますとか

オススメのボディーソープはこれですとか、

たまに

営業用に私はMですとか、

さみしがり屋なァタシ()と遊んでくれる人待って〼(ます)とか、

どうせそんな事しか書いてないだろうなくらいに思っていた。

知らない夜の世界に対して偏見しかなかった。

 

彼女は実家に住んでいる。

お父さんとお母さんと妹の4人暮らし。

お店は家からバスで通っていて、

バス停から家までも遠いので、

遅くなるとお父さんが迎えに来てくれる。

アニメと漫画、

図鑑と昆虫と妖怪が好きで、

休日は趣味のDIY家具作りに没頭。

たまにブログに載せる写真には

よく彼女の部屋があがっていて、

なぜかいつも服は着ていなかったが、

裸の彼女の後ろ側には

流木で作ったみたいな本棚の中に

図鑑や漫画がぎっしりと並んでいた。

妹とは仲が良く、よく遊んでいる。

姉妹2人で旅行に出掛けては喧嘩をし、

たまに摑み合いになっては、

その詳細をブログに書き殴り、

また次の日には何事もなかったかの様に

姉妹水入らずの旅日記を

楽しそうにまたブログに書いていた。

そんな何気ない女の子の日常が続くブログ、

たわいもない出来事を書いた

ある意味で本当の日記だった。

ただ

僕がこんな事を言うのもおこがましいが、

彼女には

そこだけでは終わらない文才があった。

多分、

何気ない日常をドラマチックに捉える事が得意な人だったんだと思う。

お母さんが買ってきてくれたどら焼きが美味しくて、

買ったスーパーで買い占めようとしたら、

先にどら焼きの前で人が立っていて、

物陰から

「買うなー、買うなー。」

と念を送り、

無事に買い占めた話や

お店からの帰り道、

後ろからついてくる人がいて、

不審者だと思って

声を掛けられた瞬間、

般若心経を唱えると

妹だった話など、

何気ない話の中にも

いつもクスッと笑えるユーモアがあった。

彼女に会って話してみたかったが、

いい歳して

1人で風俗店に行く勇気もお金もなかった。

また

「一回行ったら、

あの欲しかったオニヅカタイガーのスニーカー買えるよな。」

と現実的に思うと行く気にもなれなかった。

 

そんな彼女がある日、

何の前触れもなくお店を辞めた。

お店にも事後報告の突然の退社。

最後に更新されたブログにその理由が書いてあった。

 

「私の事を私以上に大事に思ってくれている彼をこれ以上傷つけたくない。」

 

内容から察するに

彼も彼女が風俗で働いていた事を知っていたのかも知れない。

いつも中身よりユーモアを優先していた彼女からは珍しく、

真面目な文章と今までの感謝の言葉で

ブログは締めくくられ、

それから暫くして彼女のブログは消され、

お店のプロフィールからも

彼女の名前は削除されていた。

もう今では読む事も出来ないし、

彼女に会う事も出来ない。

もう半年前くらいの話。

 

ブログを読むのも書くのも好きな方で、

割とお気に入りのブログを見つけては、

たまに過去を遡っては読み漁っている。

基本的に女性のブログが多い。

女性のブログの方が

可愛らしい写真も見れる上、

内容も楽しいものが多い。

今まで見た中だと

やっぱり壇蜜さんがずば抜けて面白かった。

読んでいたのは『私の奴隷になりなさい』公開直後の事。

ある程度の年齢を重ねた部分もあったのかも

知れないが、

裸一貫からここまで知名度を上げた現状を考えると

ちゃんと才能を持っている人は

やっぱり最終的には評価されるなと思う。

 

僕がブログを書き始めたのは、

スパルタンX(明日、照らすの前身バンド)のホームページが出来た際に

何となく書き始めたのが最初だった。

元々書く気はなかったが、

担当していたメンバーが辞めた事で

なぜか僕が書く事になった。

ちなみに最初の頃お手本にしていたのは、

J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』だった。

『ライ麦畑でつかまえて』は

アメリカの小説であり、

英語で書かれた原文を読んだ事はないので分からないが、

翻訳版では全編読み手に語りかけるような

口語体で書かれている。

日記を始める前、

銀杏BOYZの峯田さんのブログを見ていて、

「日本人がこういう『ライ麦畑でつかまえて』みたいな

口語体のテンションで書くのいいなあ。」

と思って僕も真似していた。

『硝子戸の中』を遡ると

最初の頃にその名残が残っているので、

読めば分かると思うが、

最初の段階を見ると

自分でも恥ずかしくなるくらい

サリンジャーよりも峯田さんのコピーになっていると思う。

ある時、

「日記見たけど峯田さん、好きなの?」

と知人の指摘を受けてから、

「これじゃ僕が書いている意味がない。」

と気がつき、

今はサリンジャー meets 伊丹十三と中島らも

featuring 向田邦子みたいな

ブログを書こうと思って、

もちろん4人には遠く及ばないが

自分なりに模索して、

たまに思い出した頃に書いている。

しかし昔に比べると書かなくなった。

明日、照らすが『それから』を出したくらいの頃から

ライブに来る人や

会う人に

「ブログ楽しみにしてます。」

と言われる事が異常に増え、

途中から書く量は増えたが、

「こう書いたら面白いのかな?」

と周りを気にするようになり、

書く事自体は全く楽しくなかった。

今思うと気負うほどの期待はされてなかったはずだが、

自分が暇つぶしに書いていたものが

たかだか少々評価されたくらいの事で

自分を見失っていた。

「読み返した時に自分が笑えたらいい。」

偉そうに言える立場でもないが、

今は書くものに関して、

それくらいのモチベーションでいる。

別にそれだけでいいと思う。

そもそも

彼女のブログが僕を惹きつけたのは、

単純にそれだけの理由だった気がする。

彼女も

「こんな風俗嬢のブログなんて誰も読んでないと思いますけど」

とよく前置きで書いていたくらい

他人に期待をしていなかった。

最後に残るものはそこに自分がいるかどうかだけで、

きっと周りの評価なんて関係ない。

周りの評価を気にせず、

自分が思った事だけを書き、

周りを無視しても

最後まで自分を突き抜けられるか。

かなり大袈裟な話になってしまったが、

ブログだけではなく、

音楽や私生活も含めて、

今の僕にはそこが一番の課題な気がする。

 

 

今頃、彼女は何をしているのだろうか。

もしかすると

ブログに出てきた彼と同棲しているか、

うまくいけば結婚しているかも知れない。

山ほどの図鑑や漫画とDIY家具で

底が抜けそうになっているアパートの一室の中、

妹との戦いで培った勝気さを見せて、

たまに摑み合いの喧嘩をしては、

仲直りにどこか2人で旅行に出掛けている事もあるだろう。

彼女が選んだ人ならきっと間違いはない。

元風俗嬢と付き合っている彼と元風俗嬢の彼女。

元風俗嬢の過去も含め彼女を受け止めた彼と

その彼のために新しい自分になろうとした彼女。

 

あなたは何と言うか知らないが、

僕にとって2人は

眩しいくらいに突き抜けていて、

ただただ羨ましく思える。

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