硝子戸の中

フィクションダイアリー
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STAY CRAZY/FOREVER LOVE 5『びんぼう自慢』
『びんぼう自慢』
よく「怖い」と言われる。
僕は本人なのでよく分からないが、
周りから見るといつも僕は機嫌が悪そうに見え、
かなり話しかけづらいらしい。
先日もこんな事があった。
男女5.6人で行われたバンド関係の飲み会の席での事。
日付が変わるか変わらないかくらいの時間になり、
面識のない女の子がいきなり3人やってきた。
話を聞いていると終電を逃して、
行くところがなくなった彼女たちを知った友人が
この場に誘ったみたいだった。
どうやら彼女たちもバンドをやっているらしい。
僕は席が離れていたので軽く挨拶だけし、
とりあえず
隣に座っていた友人と話していた。
たまに彼女たちの方を見ると
年上ばかりの席だったので
気を使っているのか
あまり楽しそうではなかった。
「なんか話し掛けた方がいいよなあ。」
そう思ってた矢先、
突如、
彼女たちを誘った友人が
真ん中に座っていた女の子に声を掛けた。
「さっき思ったけど、
君さ、
結構おっぱいおっきいんじゃないの?」
「何つうことを聞くんだよ!」
と飲み会の所々からヤジが飛び、
ひとまず笑いになった。
彼女たちもお互いの顔を見合わせて、
クスクス笑っている。
それを見てちょっと安心した僕は調子に乗って、
「なんなんすか、それ。
思ってもなかったっすよ。
誰が知りたいんすか?
まあ、でも、いちよ、
カップ数だけ聞いとく?
興味ないけど?
あー、めんどくせー。」
とキレたノリで話題を被せた。
「お前、
カップ数知りたいだけじゃねーかよ!」
と周りからいいタイミングでツッコミを入れてもらい、
また笑いになった。
彼女たちもまだちょっと固いけど笑ってる。
「笑ってくれてひとまずは良かったな。」
そう思っていると
「Dです。調子がいいとE。」
「私はそんなにないです。」
となぜか女の子たちが各々のカップ数を答え出した。
予期せぬカミングアウト。
「…い、E!?」
男子たちはため息まじりに彼女の顔を見つめ、
「ってほんとに答えると思わんかったわ!」
と更に場が盛り上がり、
そのまま違う話題に移行していって、
彼女たちも他の話題に入れる空気ができたので、
ホッとしてそのままこのやりとりを忘れていたが、
後日友人から
あの後に彼女たちに会った話を聞いて、
衝撃を受けた。
「明日、照らす好きだったし、
村上さんと話してみたかったんですけど、
怖すぎて話せませんでした。」
嘘だろ。
ウソと言ってくれ。
え、ちょっと待って、
何か話さなかったっけ?
…い、いー、イー、E
…Eカップ!
「カップ数答え出すとか、
すげーノリのいい子達だなあ。
今の子達は性に開放的だね。」
とあの時は思ってたけど、
本当は僕がただ怖くて、
答えないと怒られると思って答えてくれたのか。
パワハラ+モラハラ。
確実に法廷で戦ったら負ける。
彼女たちには一度手を付いて謝りたいが、
あれから彼女たちに一度も会っていないし、
もしかすると
二度と会うことはないかもしれない。
深く考えた事はないが、
「怖い」の原因の1つに僕の目つきがあるのかもしれない。
「目つきが悪い。」
昔からよく言われた。
中学2年の頃、
学年が1つ下の後輩から
「村上さん、気をつけた方がいいですよ。
クラスの奴が
「あのいつも睨んでくる村上って奴、
一回みんなで帰り道に襲おうぜ。」
って言ってました。
止めときましたけど、
どうなるか分かりません。」
と忠告を受けたことがあった。
その場は後輩の手前、
「へー。」
くらいで終わったが、
内心は泣きたくなるほど凹んでいた。
アコースティックギターを買ってもらうために
一ヶ月間、
毎日お風呂掃除をして
ようやく
クリスマスプレゼントに
新品のモーリスのアコースティックギターを買ってもらうような
善良的な中学生として育ち、
なんなら生徒会で副会長もやっている。
そんな僕にとって
予想もしていなかった出来事だった。
バレー部の後輩は僕を知っていたので、
そのメンバーには1人も入っていなかったが、
それからは帰り道に背後を気をつけながら、
自分の人相を恨み、
自分の遺伝子を恨んだ。
僕の親父も人相が悪かった。
僕が中学生の頃は
日が当たるとレンズがサングラスに変わる
眼鏡を掛けていたので、
その人相の悪さに拍車を掛けていた。
ある日、
またバレー部の後輩から
「この前、
村上さんの家に物凄い悪そうな人が入って行くのを見ましたけど、
何かあったんですか?」
と言われたことがあり、
よくよく話を聞いていくと親父だったことが分かった。
あの時は笑っていたが、
他人から見ると実際は普通のサラリーマンで、
悪いことなんか絶対にしないのに
人相だけでそこまで悪く見えるんだなと改めて思った。
大学を卒業するくらいまで、
親父とは本当によく喧嘩をした。
説教も1.2時間は当たり前で、
よく殴られたし、
何度も掴み合いになった。
「ともやはお父さんに言い返すからいつもこじれる。
適当なところで謝ればいいのに。」
と姉にもよく言われたが、
確かに長くなる原因として
僕だけは親父に言い返したし、
納得出来ないと謝らなかった。
高校生の時、
家から自転車で10分で着く高校に通っていたが、
その近さが仇となり、
何度も遅刻をした為、
お袋が学校から呼び出され注意を受けた。
その話を聞いた親父が仕事から帰ってくると
実家のリビングでテレビを観ていた僕に
「お前、
今ここで二度と遅刻はしないと誓え。
遅刻をするやつは何をやらせても信用されない。」
と鬼のような人相をして言ってきた。
「悪いと思ってるし、
遅刻しないように気をつけるけど、
多分またすると思う。
だから誓えない。」
と答えると思いっきりぶん殴られた。
こんなこともあった。
大学生の時、
近くの駅までは自転車で通っていて、
駅の駐輪場に自転車を置いておいたら盗まれた。
この時点ですでに
自分の自転車が盗まれ、
借りたお袋の自転車も盗まれ、
さらに借りた親父の自転車が盗まれたので、
もう盗まれたのは3回目で、
その都度それなりに怒られたが、
今回は僕が自転車の鍵を掛け忘れた事が原因だった事を知り、
また仕事から帰ってきた親父に
「何回盗まれたら気が済むんだ!?
それが分かってて、
自転車に鍵を掛けないなんて
お前は何を考えてるんだ!!」
と散々に怒鳴り散らしてきた。
「悪いとは思うけど、
何で俺が怒られないといけないんだよ。
悪いのは盗まれた俺じゃなくて、
盗んだ奴だろ?」
と言い返すと親父は
座っている僕の胸ぐらを掴み、
「もう一回言ってみろ!」
と言ってきたので、
僕は立ち上がって掴み返し、
「だから悪いのは盗んだ奴だろ!
俺は盗んでくれって誰にもお願いしてない。」
と言い返した。
すると夕飯の支度をしながら、
その光景を見ていたお袋がいきなり
「あはは、ごめん、
なんか可笑しくて、あはは。
何でこうなっちゃうのかなって、ははは。
とも(友哉)の言ってる事も一理あるわね。」
と笑い出し、
力が抜けた僕らはお互いに照れ笑いをして、
パッと手を離した。
ただ親父に殴られた事はあったが、
親父を殴った事は一度もない。
どんなに腹が立っても
それだけは出来なかったし、
いつも親父の方が正しかったので、
手を出す必要もなかった。
口には出さなかったが、
僕の中で親父には非の打ち所がなかった。
親父は16歳の頃に地元の滋賀県から愛知県に就職で来て、
それ以来ずっと三菱で働きながら愛知県に住んでいる。
お酒もほとんど飲まないし、
タバコも吸わない。
口下手だから女の子とも遊べないし、
週末は家でいつも競馬新聞を読んでいた姿ばかり見ていたので、
友達も多分そんなにいない。
仕事一筋の絵に描いたような真面目な父親。
文化的な部分では
本も映画も好きだけど、
落語を聞くのが何より好きだった。
小さい頃からよく親父の寝室から
落語のカセットテープが流れていて、
その声を聞きながら
僕ら子供たちも隣の部屋で寝ていた。
たまに夜中にふと目が覚めると
落語が聞こえてきて、
「親父、まだ起きてるんだな。」
と小さい頃は
部屋中が真っ暗で心細かったけど、
あの落語が聞こえてくるとちょっと安心できた。
あと好きなものと言えば競馬。
お袋と出会う前の親父は本当に競馬浸りの生活だったらしく、
給料を貰ったら自分の貯金と
仕送り分を引いた残りのお金で
まずインスタントラーメンを1ダース買い、
残りのお金を全部競馬につぎ込んでいた。
お金の為というよりは
単純に競馬が好きだったみたいで、
勝ったら次に買う馬券のお金が増えるだけで、
負けたら次の週末から出歩かずに
買っておいたインスタントラーメンを食べて、
1日を過ごしていた。
平日は朝昼晩と寮の食事があるので、
週末さえ乗り切れれば生きていけた。
そんな競馬好きの親父でさえ
お見合いでお袋と出会ってからは
週末は京都に住んでいたお袋とデートをする為に
いつものように競馬に行けなくなってしまうが、
周りにはお袋のことは言ってなかったので、
週明けに同僚に会うと
「昨日のレースはどうだった?」
と毎週聞かれ、
「行ってない。」
と答えても全然信じてもらえなかったらしい。
それくらい周りから見ても
親父は競馬しかやっていなかった。
何をしていたのか聞かれるのも
行かなかったと言うのも
段々面倒くさくなってきて、
途中からは
「まあまあだったよ。」
と競馬に行ってなくてもそう答えて
いつもその場をやり過ごすことにしていたみたいだった。
多分あの時、
お袋のことを言わなかったのは、
この時点でお見合いが3人目だったので、
振られる可能性があったからだと思う。
そういう変なプライドがあるところも含めて、
なんとも僕の父親らしいエピソードだ。
『びんぼう自慢』は
落語の神様と謳われた
古今亭志ん生の半生を語った自伝で、
自身の執筆ではなく、
ライターが志ん生が話している話を聞きながら、
書き留めた口語体の文章もまた魅力的だと思う。
あの志ん生独特の言い回しや
母音を伸ばす話し方を読んでるだけで、
目の前で話を聞いているかのような気分になれるので、
一ファンとしてはそれだけで嬉しい。
タイトルに「びんぼう自慢」と書いてあるだけあって、
びんぼう話や苦労話に関しては、
なかなか志ん生に勝るエピソードを持っている人も少ない気がする
巨大ななめくじが大量発生するなめくじ長屋の話や
戦時中の満州での極貧生活の話など、
話し方によっては
悲劇にもなるような出来事の数々を
面白おかしく書いてあり、
志ん生自身
「生き方そのものが落語」
と言われるだけあって、
志ん生が志ん生になった由縁が分かる一冊だと思う。
息子である古今亭志ん朝の方が
テレビドラマやお芝居の世界で活躍していたので、
世間的な知名度は志ん朝の方があるかもしれないが、
本人も親子の人情噺の落語を話す時のマクラ(落語に入る前の小話)で
「親と比べられると私も肩身がせまい」
と話すほど、
父親の芸を買っていたし、
心の底から尊敬していた。
またお客さんもそのマクラを聞いて、
会場が割れんばかりの拍手を送っていたところを見ると
同じ気持ちだったのかもしれない。
立川談志から
「今、金を払って見たいと思う落語家は志ん朝だけだ。」
と言われるほどの天才肌だった
古今亭志ん朝でさえ
やはり父親には敵わなかった。
大学卒業間近、
フリーターになり、
バンドを続ける話を親父とお袋に話した日。
僕はアルバイトを終え、
家に帰ると2人の前で土下座をし、
「大学まで出して頂いて申し訳ないですが、
フリーターになり、
もう少しバンドを続けさせて下さい。
そのかわり実家にはいられないので、
明日から家を出ます。」
と言ったことがあった。
親父は僕を見て、
「そんなことはしなくてもいいから、
顔をあげろ。」
と言った。
「お前は今だに
高校の頃からの遅刻の癖が直らなくて、
何台も自転車を盗まれたよな?」
「はい。」
「時間も守れない、
自分の物も人の物も大事にできない奴が
音楽だけは頑張ります。
っていきなり言われて信用できると思うか?」
「それは関係ない。」
「関係ある。
俺は物事の本質の話をしてるんだ。
信用っていうのはお前の生活そのものだ。
人はお前の色んな部分を見て、
お前という人間を判断する。
どんな社会でも好きなことだけは真面目にやるでは通用しない。
お前にはまだ分からんかもしれんけど、
そのうち分かる。」
「…。」
「俺は三菱で40年働いてきた。
今だにこれで良かったのか、
自分でもよく分からん。
多分、
棺桶に片足を入れる日が来るまで、
正しかったのかどうか分からん。」
「…。」
「ただお母さんがいたし、
お前もりょうじ(弟兼明日、照らすスタッフ)もお姉ちゃんもいたから、
そんなことは言ってられなかった。
働くしかなかった。」
「…。」
「俺みたいなやることは競馬だけで、
音楽なんかほとんど聴かない人間の息子が
まさか音楽に興味を持つと思わなかった。
それは意外だった。
お前が中学の時、
お母さんから
「ともがギターが欲しいって言ってるけど、
お父さんどうする?」
と言われた時は本当にびっくりした。
とりあえず
お母さんにいくらぐらいするのか
見てきてもらって、
「とものことだからいつまで続くか分からないし、
中古の方が安いから中古にしようと思う。」
と言われたけど、
「せっかく
ともがやりたいと思ってやるんだから、
俺も金出すから新品を買ってやれ。」
とお父さんもあの時少しお金を出していた。」
「…そのことは知らなかった。」
「そんなもの
いちいちお前に言うような話じゃない。
よくよく思い返せば、
俺にはお前のような人生の選択肢はなかった。
まず選択肢がなかった。
就職しないなんて考えたこともない。
でもお前を見てると
「そういう生き方もありかもな。」
と思う時がある。
そう俺が思ったのも意外だった。」
「…。」
「お前がどうなるかはお前が決めたらいい。
やれる時にやりたいことがあるなら、
やればいい。」
「…。」
「フリーターになろうが、
何になろうが俺は構わん。
大学までは出したのは親の務めだと思ってるから、
別に気にする必要はない。
ただその代わり、」
「…。」
「人に絶対に迷惑を掛けるな。
人から後ろ指を指されるようなことだけはするな。
それだけは約束しろ。」
「はい。
分かりました。
約束します。
親不孝者で、本当にすいませんでした。」
競馬には一切興味が持てなかったけど、
最近は僕もたまに落語を聞きながら寝ている。
子供の頃からいつも夜中に隣の部屋から聞こえてきたので、
体の中にその習慣が残っているんだろう。
しかし
まさか自分が落語にハマるなんて思いもしなかった。
結局、血は争えない。
ただ
びんぼうこそしていないが、
あの人と同じ血が僕の中に流れていることが
こうやって人に話せる僕の自慢でもある。
追記
父さん、
飲み会の席でノリで女の子にわい談をする
大人になり、
人様にご迷惑をお掛けする息子になってしまったことを
ここにお詫び致します。
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