硝子戸の中

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STAY CRAZY/FOREVER LOVE 8『トレイシー・ローズ』
『トレイシー・ローズ』
先日、
さよならパリスMV『STAY/GOLD』を公開した際、
「あの着ているTシャツは全部私物なんですか?」
とよく聞かれた。
もちろん全てお互いの私物で、
2人合わせて120枚くらいのTシャツを
ひたすら5時間着ては脱いで、
着ては脱いでの撮影だった。
僕個人として
バンド以外のTシャツまで入れると
ちゃんとは数えたことはないが、
100枚以上のTシャツを優に持っていると思う。
バンドTシャツをはじめ、
映画、小説、漫画など種類は様々で、
趣味という趣味を
音楽、映画、お笑い鑑賞以外に持ち合わせていない僕だが、
ライフスタイルの一環として行ってきた
このTシャツのコレクションも
今となっては堂々と趣味と呼べる気がする。
昔からなぜか異常にTシャツが好きだった。
今ではちゃんと自分が着るものとして
ある程度選んでいるが、
大学生の頃までは
どちらかといえば
内容よりもインパクト重視で、
青空のように青いボディーに
『沖縄』と赤で書かれたTシャツや
背中に『キヤスイ』と書かれ、
フロントに鬼の絵のTシャツなど、
今では着れないような
何の意味もないメッセージTシャツをよく着ていた。
なぜなのかは今ではよく分からない。
当時の僕は個性を履き違えた
自己顕示欲の塊だったとしか言いようがない。
もしかすると
自分の中身や普段の生活が平凡な分、
外見を変えることで
自分自身の個性を主張しようとしていたのかも知れない。
いつも人と違えば違うだけかっこ良かった。
人と違えば、
おしゃれなんてどうでも良かった。
高校生の頃から
よくインターネットでTシャツを買っていた。
当時はTシャツを選ぶ基準も
バンドTシャツの場合、
「そのバンドが好きか?」よりも
「そのTシャツにインパクトがあるのか?」
が重要で、
知らないバンドでもTシャツにインパクトがあれば、
それだけで買ってみて、
後からバンドのCDを買うという
逆輸入的なことも良くしていた。
しかし12.3年前には
あまり僕が聴くような
海外のポップパンクバンドのTシャツやグッズを海外から輸入して
取り扱っているネットショップは本当に少なく、
覚えている限りでも
JUSTROCK STORE、
LAST BANDITS、
Hi!SOFT、
DRAG TRAINの4つくらいしかなかった。
JUSTROCK STOREは今ではもうないが、
他の3つは今だに
たまに覗いては買い物をしている。
高校生の頃は
送料を節約するために友達と合わせて買っていて、
注文はメールではなく電話でしていた記憶がある。
中でもDRAG TRAINが特に好きだった。
ある20%オフセールの時に
電話で注文した際、
「合計で割引して〇〇円になります。」
と女性の店員に言われ、
もちろんセールは知っていたが
あまりの嬉しさに
「割引、ありがとうございます。」
と思わず言うと
「いえいえ、
こちらこそありがとうございます。」
と笑いながら言い返された。
多分、
田舎者の高校生が
ちょっと背伸びをして電話をしている、
そう映ったのだろう。
彼女にはもちろん会った事もなかったが
にっこりと微笑みながら、
頷いている顔が目の前に見えるような笑い方だった。
もちろん
そんな人間味があるところも好きだったが、
1番DRAGTRAINが好きだった理由は、
定期的に送ってきてくれていたTシャツのカタログで、
カタログというと聞こえがいいが、
Tシャツのデザイン部分だけがアップになった写真を
1ページに約50枚載せ、
白黒のコピー用紙を束ねただけの
遠足のしおりのような6ページ程度のファンジン(自費制作小冊子)ではあったが、
この小冊子を夜な夜な
1人布団の中で読む時間が好きだった。
YOUTUBEやMYSPACEが流行る少し前の頃の話なので、
Tシャツは見れても音楽はすぐに聴けなかった。
でもただカタログを見つめながら、
「このバンドはどんな感じなのかなあ。」
とバンド名とTシャツのデザインしか知らない状態で
何となく想像を膨らませ、
そのTシャツを着て出歩く自分の姿を想像するだけで、
ただただ楽しかった。
DRAG TRAINは
他のサイトとは違って、
バンドTシャツ以外にも
海外の映画や著名人、シリアルキラー、
マリリン・マンソンの元ネタでもある
チャールズ・マンソンのTシャツまでも置いてあった。
ここで初めてシリアルキラーという言葉を知った。
エド・ゲインのような連続殺人鬼たちの総称。
海外では
なぜそんな人がいわば伝説的に評価され、
Tシャツまで作られるのかよく分からなかったが、
自分が狂ってる人間だと伝える手段なんだろうなと理解はできた。
きっと日本人にはない感覚だが、
あの時の僕がアメリカに産まれ、
インパクトを追求し過ぎた時、
これを買うんだろう。
DRAG TRAINでTシャツを通して、
自分が知らない世界が広がっていった。
あのカタログは
僕にとって最初のサブカルチャーの教科書でもあった。
そんなある日、
いつものように届いた
最新号のカタログを夜な夜な眺めていると
ひときわ目立つ金髪の女の子のTシャツが目に留まった。
体のサイズに合わないROTICAとプリントされたタンクトップ
下着姿の女の子が
挑発的な目をしてこちらを見ている。
Tシャツに一目惚れした。
エロとインパクト、
最強のコラボレーション。
カタログでTシャツの名前を見ると
『トレイシー・ローズ』
と書いてあり、
誰のことか全く分からなかったが、
シリアルキラーだったらさすがに着れないので、
すぐに彼女をインターネットで調べた。
トレイシー・ローズ。
世界で今もなお絶大的な人気を誇る
元ポルノクィーン。
彼女の人気をカルト的な立場まで持ち上げたのは、
童顔にハードな内容よりも
年齢を詐称してデビューした経緯で、
デビュー当時の彼女は15歳だった。
彼女の作品は見たことがないので、
イメージになるが、
デビュー作の写真を見る限り、
確かに童顔とはいえ
15歳とは思えないほどの色気と妖艶さがあった。
彼女がポルノ女優だと知って、
いつも一緒に買っていた友人に連絡を取り、
すぐにTシャツを購入することにした。
これが手元になければ
明日から何を着ていけばいいのか分からないほど、
このTシャツのことが頭から離れなかった。
「15歳でデビューしたポルノクィーン」
「今では家出少女のサポートをする施設をやっている」
いつもTシャツを買う上で
最低限の知識は仕入れていて、
トレイシー・ローズは
インターネットで見たこの2つの情報以外、
いまいち内容が頭に入ってこなかったが、
この2つがあれば
これが何のTシャツか人に聞かれた際に
立ち話程度の会話は乗り切れるだろうなと思ったので、
買ってもあんまり深くは考えなかった。
しかし
10代後半から20代前半は
このトレイシー・ローズTシャツを本当によく着た。
当時の僕に馴染みがある方だと
実際に着ている姿を見たことがある人もいると思う。
それから何年か経ち、
映画『クライベイビー』を観ていると
1人の女性に目が釘付けになった。
童顔に似合わないような
はれぼったい唇に真っ赤なルージュをひき、
革ジャンを着て、
赤いスカーフを巻き、
いつでも周りの男を挑発するような目つきの彼女。
名前を調べると
彼女がトレイシー・ローズだった。
Tシャツこそ着ていたが、
僕の興味は2つの情報だけで終わり、
実際に動いている彼女を見たことがなかった。
観終わった後、
彼女のことを前よりも深く調べた。
「本当にこの人があのトレイシー・ローズなのか?
こんな可愛い子がアダルトに出ていたのか? 」
そんな疑問が自分の中で消えず、
彼女が自身の半生を振り返った自伝
『トレイシー・ローズ 
15歳の少女がいかにして一夜のうちにポルノスターになったのか〜』
を出版していたことを知り、
読んでみることにした。
複雑な家庭環境と特殊な幼少期、
暴力を振るう父と
取っ替え引っ替え新しいボーイフレンドを作り、
そのボーイフレンドから
彼女が性的虐待を受けていたことを知らない母。
あの挑発的な目つきからは
想像もできないような
か弱い1人の少女が
母親に連れられるがままに
アメリカ中を転々と暮らし、
辛く痛々しい現実の中で
それでも前を見て生きていく姿は
あまりにも残酷で、
ただただ1ページめくるごとに
胸の奥が締め付けられるような気持ちになった。
ポルノに彼女を斡旋したのは、
母親のボーイフレンドだった。
彼女は生きていくためにポルノに出るしかなかった。
15歳では受け止めきれないほどの現実の数々。
「なんで俺はこんなに平凡に生まれてきたのかなあ。
複雑な家庭環境にいた方が
何かを作る上で土台になって、
きっと個性的な人間になれたのになあ。」
自分に特殊した個性がないことをただ周りのせいにして、
外見だけを気にしていた過去の自分が
いかに愚かだったのか。
幼少期の不幸な体験は
ファッション感覚で着こなせるほど、
生易しいものではない。
年齢や時期を考慮し、
自分のタイミングを待って
内容を選んでくれるような
そんな生易しいものではない。
ただここに書かれているのは
こんな悲しい話ばかりではない。
この本の中で
僕自身が1番印象に残っているエピソードは
18歳でポルノを引退し、
彼女の本格的な女優デビュー作である
『クライベイビー』の撮影中、
宿泊していたホテルでのエピソード。
トレイシー・ローズの部屋には
ビデオデッキがなかったので、
役作り用の映画を見るために
ビデオデッキがある
主演のジョニー・デップが部屋を貸してくれた。
「監督と本読みがあるから
その間好きに使ってくれていい。」
と彼から合鍵を渡されて、
お礼を言うとエレベーターまで全力で走って行き、
エレベーターに乗るまで息すらできなかった。
部屋に戻り、
シャワーを浴びながら、
「彼はどうしてこんなに優しいんだろう?
みんなに優しいのかな?
付き合ってるガールフレンドって可愛いのかなあ。」
と考えていた。
シャワーを浴び、
ジョニー・デップの部屋に行き、
ベッドに座りながら、
役作り用の映画を見ていると
監督との本読みを終えた彼が部屋に帰ってきた。
さりげなく隣に座るジョニー・デップ。
映画に夢中になっているフリをしたけど、
隣に彼がいると思うと
ドキドキしてそれどころじゃなかった。
「新しい髪形、可愛いね。」
と髪に触ってヘアバンドを外し、
「下ろした方がもっと可愛いよ。」
と笑う彼。
映画が終わり、
お礼を言って走らないように部屋を出て行く。
「ジョニーの唇があんなに近くに!
てかほんとどうして私は
男の人といるとこんなに緊張するんだろう?」
部屋に戻り1人になって、
ドギマギしていたことが彼にばれてないか
想像するだけで顔が赤くなった。
このエピソードを読んで
結局、
女の子は女の子であって、
どんな仕事やどんな身なりをしていても
きっと中身は普通の女の子と一緒なんだろうなあと思うと
なんだか微笑ましかった。
最近、
インターネットのニュースや
テレビのワイドショーで
2世タレントのAVデビューの話題をよく見る。
最初は興味を持って見ていたが、
徐々に見るのが辛くなってきたので
今ではあんまり見ないようにしている。
辛い理由は
彼女の私生活のゴシップ的な話題ももちろんそうだが、
それ以上に彼女のAVデビューについての
コメントやその言われ方の方が気になってきた。
「落ちた」「終わった」
確かにタレントから出発した芸能活動を考えた時に
人前で裸をさらし性行為を売り物にするのは
これからの将来のない行動にも見えるが、
それでは
元々そこから出発した多くのAV女優たちは
初めから落ちて、
終わっていることになる。
それを言われて傷つかない人なんかいない。
「自業自得だ。」
と言われたらそれまでかもしれないが、
自業自得だと言い切れるほど
彼女たちの何を知っているんだろう。
トレイシー・ローズは
生きるためにポルノを選んだ。
どん底の生活を変えるために選ばざるを得なかった。
あの半生の中に僕やあなたがいたら、
おそらく救いを求めてポルノの世界にいたと思う。
もちろん
僕もトレイシー・ローズによって語られた
390ページに及ぶ半生を読んだところで、
それは一部であって、
彼女の全てが理解できているとも思っていない。
だからこそ
390ページの自伝もない彼女たちのことを
「落ちた人」「終わった人」
とそんな簡単な言葉で片付けられるとは
僕には到底思えない。
今の自分が落ちているのか、
終わっているのか、
それは自分が決めることであって、
少なくとも
お前らが決めることではない。
それが分からないようなのであれば、
僕からするとお前らの方が終わってるよ。
追記・
こういう話に興味がある方は
『AV女優』永沢光雄(文藝春秋)
『名前のない女たち』中村淳彦(宝島社)
『ディープスロートの日々』リンダ・ラブレース(徳間書店)
も読んでみるといいかも知れません。
『ディープスロートの日々』は廃盤なんで、
手に入れるまでに1年以上掛かったけど。
こんなことを言うと
身も蓋もないんですが、
『ディープスロートの日々』以外の2冊はインタビュー本で
どこかしらインタビュアーが
常に相手の不幸探しをしているような
全体的に
「AV女優になる人はそれ相応の不幸がある」的な空気感があって、
勝手に真実としての内容は薄い気がしています。
多分、
もっとライトな理由だけでなる人も普通にいると思いますから。
語られた幼少期の体験や家庭環境は
実は全然関係なくて、
遊ぶお小遣いがほしいとか、
単純に暇だったからバイト感覚でとか。
ちなみに僕自身、
AVに関しては肯定派でも否定派でもありません。
やっぱり神様に背く行為だと思っています。
知人からAVに出たいと言われたら、
間違いなく止めると思う。
深く関わってもないのに偉そうなことは言えませんが、
彼女たちがAVに関わって良かったのかどうかは
おそらく関わってる時には
結論は出ないと思いますね。
親や兄弟については
自分の肉親なのだから
最終的には肯定するしかない気がするし。
答えが出るのはきっと
今はまだ見ぬ将来の彼氏や夫に子供、
またはこれから出会う
その他大勢のあなたを愛してくれる人たちが
その事実を知って傷つくかどうか、
その事実を知る前と同じようにあなたを愛してくれるのかどうか。
本当の結論が出るのはその時じゃないかな。
多分、
AV女優としての過去を受け止めることに
本当に辛いのは周りにいる人たちであって、
彼女たちじゃない。
そんな気がする。
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